2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
なお、ブログ中の掲載物につきましては「無断転載・無断使用を禁止」させていただきます。
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「椿さんが…帰ってくるって言った…。」
たった今切れたばかりの携帯を握り締め、鷹久はボソリと呟いた。
帰って来る?
誰が?
椿さんが?
何処へ?
ここへ?
当然だ。ここは椿の家なんだから。
でも、この一週間一度も帰って来ていない。
それどころか、電話だって、今日が初めてだ。
だから。
うるさい子供のいる家には来ないのだと思っていた。
だって…沢山家があるって言ってたし。
なのに。
「椿さんが…。」
帰って来る!!
しかも、明日は買い物に連れてってくれるって!!
「ど…どどど、どうしようっ。」
どうしよう。本当にどうしたらいいんだっ。
落ち着けっ。落ち着け、自分っ。
「と…とにかく、久と秋に教えなくちゃっ。きっと喜ぶぞ。」
特に秋は椿さんが大好きだから。
でも。でもでも。買い物の事は黙ってないと…。
「椿さん、忙しいって聞いたし。」
もしも久や秋に言って、直前になって行けなくなったら。
久はともかく、きっと秋はしょんぼりしてしまう。
「と、とにかく。帰って来る事だけ…。」
…。
「本当に…帰って来てくれるのかな…。」
待ってるって…言っちゃったけど。
帰って来なかったら…。
いやいやいや。そんな事、ない。
だって、日付変わるけどって言ってたもの。
うん。
テンションが上がったり下がったり、まるでジェットコースターにでも乗っている気分だ。
勿論、鷹久はジェットコースターになんか乗った事はないけれど。
でも、とにかく椿に会える。
その事で鷹久の胸はいっぱいだ。
何しろ一週間ぶりである。入院中は頻繁に会えたけど、それだって考えてみれば少しの時間だ。しかも深夜が多かった。久秋や秋典の様子を見る為に早くに来る事はあったが、やはり忙しい身なのだろう。鷹久が椿の身体の心配をするくらいには深夜の見舞いが多かったのだ。
ふと、あの頃を思い出し、鷹久は長い睫毛を伏せた。
「椿さん…忙しいのに。」
それでも、態々帰って来てくれる。
買い物にも連れて行ってくれると言った。
「どうして…。」
よく、解らない。
初めて会った時から、椿の態度はまったく変わっていない。
自分にも弟たちにも、本当に優しくしてくれる。大事にしてくれる。
それまで自分たち兄弟に向けられる視線は、それはそれは不躾で、ねっとりとしていて。時には値踏みするように。時には服の下まで覗こうとするかのように。淫猥で狂気を孕んだ視線。いつもいつも。気持ちが悪くて。怖くて。
それなのに、椿にも、椿の周囲にいる男たちにも、そんな視線を向けられた事はない。
初めて会った時からだ。
勿論、男たちの探るような視線は何度も感じたが、それは何処の馬の骨とも解らぬ子供を、見知らぬ他人を傍に置こうとする椿の身を案じての事だ。
今までとはまるで違う。
でも、だからこそ不安にもなる。
どうして自分たち兄弟をこんなにも大切にしてくれるのか。
椿にとって、そんな価値が自分たちにあるのだろうか。
どういう理由で椿は自分たち兄弟を引き取る事にしたのだろう。
椿もあづみも、何も心配しなくて良い、というだけで何も教えてはくれない。
こんな贅沢三昧な生活に慣れてしまって、もしも見捨てられる時が来たらどうしたらいい?
「はあ…。」
ジェットコースターのように上下していた鷹久の気分は、結局どんよりとした溜息で終わった。
さっきまでのドキドキは何処に行ったのか。
ところで。
自分はクローゼットで何をしているんだ…?
「……あ、風呂。」
どうやら驚異の記憶力も、日常の些細な出来事には意味をなさなかったらしい。
やっと弟たちの着替えを取りに来た事を思い出し、再びボロ布と化した服に向かって項垂れる鷹久である。
たった今切れたばかりの携帯を握り締め、鷹久はボソリと呟いた。
帰って来る?
誰が?
椿さんが?
何処へ?
ここへ?
当然だ。ここは椿の家なんだから。
でも、この一週間一度も帰って来ていない。
それどころか、電話だって、今日が初めてだ。
だから。
うるさい子供のいる家には来ないのだと思っていた。
だって…沢山家があるって言ってたし。
なのに。
「椿さんが…。」
帰って来る!!
しかも、明日は買い物に連れてってくれるって!!
「ど…どどど、どうしようっ。」
どうしよう。本当にどうしたらいいんだっ。
落ち着けっ。落ち着け、自分っ。
「と…とにかく、久と秋に教えなくちゃっ。きっと喜ぶぞ。」
特に秋は椿さんが大好きだから。
でも。でもでも。買い物の事は黙ってないと…。
「椿さん、忙しいって聞いたし。」
もしも久や秋に言って、直前になって行けなくなったら。
久はともかく、きっと秋はしょんぼりしてしまう。
「と、とにかく。帰って来る事だけ…。」
…。
「本当に…帰って来てくれるのかな…。」
待ってるって…言っちゃったけど。
帰って来なかったら…。
いやいやいや。そんな事、ない。
だって、日付変わるけどって言ってたもの。
うん。
テンションが上がったり下がったり、まるでジェットコースターにでも乗っている気分だ。
勿論、鷹久はジェットコースターになんか乗った事はないけれど。
でも、とにかく椿に会える。
その事で鷹久の胸はいっぱいだ。
何しろ一週間ぶりである。入院中は頻繁に会えたけど、それだって考えてみれば少しの時間だ。しかも深夜が多かった。久秋や秋典の様子を見る為に早くに来る事はあったが、やはり忙しい身なのだろう。鷹久が椿の身体の心配をするくらいには深夜の見舞いが多かったのだ。
ふと、あの頃を思い出し、鷹久は長い睫毛を伏せた。
「椿さん…忙しいのに。」
それでも、態々帰って来てくれる。
買い物にも連れて行ってくれると言った。
「どうして…。」
よく、解らない。
初めて会った時から、椿の態度はまったく変わっていない。
自分にも弟たちにも、本当に優しくしてくれる。大事にしてくれる。
それまで自分たち兄弟に向けられる視線は、それはそれは不躾で、ねっとりとしていて。時には値踏みするように。時には服の下まで覗こうとするかのように。淫猥で狂気を孕んだ視線。いつもいつも。気持ちが悪くて。怖くて。
それなのに、椿にも、椿の周囲にいる男たちにも、そんな視線を向けられた事はない。
初めて会った時からだ。
勿論、男たちの探るような視線は何度も感じたが、それは何処の馬の骨とも解らぬ子供を、見知らぬ他人を傍に置こうとする椿の身を案じての事だ。
今までとはまるで違う。
でも、だからこそ不安にもなる。
どうして自分たち兄弟をこんなにも大切にしてくれるのか。
椿にとって、そんな価値が自分たちにあるのだろうか。
どういう理由で椿は自分たち兄弟を引き取る事にしたのだろう。
椿もあづみも、何も心配しなくて良い、というだけで何も教えてはくれない。
こんな贅沢三昧な生活に慣れてしまって、もしも見捨てられる時が来たらどうしたらいい?
「はあ…。」
ジェットコースターのように上下していた鷹久の気分は、結局どんよりとした溜息で終わった。
さっきまでのドキドキは何処に行ったのか。
ところで。
自分はクローゼットで何をしているんだ…?
「……あ、風呂。」
どうやら驚異の記憶力も、日常の些細な出来事には意味をなさなかったらしい。
やっと弟たちの着替えを取りに来た事を思い出し、再びボロ布と化した服に向かって項垂れる鷹久である。
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耳朶を擽るような声を断ち切るようにスライド式携帯を閉じた。
控えめに言葉を探すアルトの甘さ。
そう遠くない日に。
すべては自分の物になる。
そう思っているのに…。
時々、底なしの闇に引き摺り込まれる夢を見る。
血に塗れた両の手で、あの白い躰を思う存分穢す夢だ。
甘い口唇を味わい尽くし、白い肌に紅の花を咲かせまくり、細い脚を思い切り開かせ…。
まるでハイエナのように震える果実を貪り喰らう。
そんな夢を。
この頃、よく見るようになった。
「限界も近いな…。」
あの異常な軽さを実感していなければ、すでに手中に収めていただろう。
鷹久の、あの窶れ果て凍えた躰を抱き締めたりしていなければ、今頃はきっと、睡眠時間を削ってでも毎日貪っていた筈だ。
「まったく、タイミングの悪い。」
本当ならば、出逢った当初に略奪していた筈だったのだ。
あづみの手から。
それが。
「アメリカのバカが…経済対策をドジりやがって…。」
丁度、椿が鷹久と出逢った時、アメリカ経済の急激な悪化で界桜グループも混乱していたのだ。被害を最小限に抑え込む為、椿も裏から表から打てる手をすべて打たなくてはならない状態で、暫く身動きが取れなかった。
それさえなければ…。
今更だが。
「立花。」
椿は再び助手席の秘書を呼んだ。
『はい。』
「鷹久たちの衣類を揃えたい。何処か良い店はないか。」
『それなら、ユニシロは如何ですか?』
「ユニシロ?」
『ええ。肌着からコートまで。頭のてっぺんから足の先まで殆ど揃います。価格もリーズナブルですし、最近は若手デザイナーを何人も起用してファッション性の高い質の良い物が揃っていると聴きます。何より、あの三人なら高級ブランド店に連れて行った時点で吐きますよ。きっと。』
「…。」
『貸し切りますか?』
「ああ、そうだな。極上天使の体調もあるだろうから、午前中貸し切ってくれ。」
『わかりました。』
「ところで、何処にある店だ?」
『桜宮(さくらのみや)大通です。』
「帝都中央か?」
『はい。西の大通。東京で言うと銀座ですか。』
そんな店、あったか? とは、聞かなかった。
大体、椿がいつもスーツをオーダーメードする店とて桜宮大通にあるのだ。言うまでもなく一流ブランド店が揃っている。
っていうか…。
「俺の土地に建ってるのか?」
『…。』
今頃気付かないでください。と、いう言葉を立花は必死で飲み込んだ。
財産管理にかなりの不安が残る椿である。
控えめに言葉を探すアルトの甘さ。
そう遠くない日に。
すべては自分の物になる。
そう思っているのに…。
時々、底なしの闇に引き摺り込まれる夢を見る。
血に塗れた両の手で、あの白い躰を思う存分穢す夢だ。
甘い口唇を味わい尽くし、白い肌に紅の花を咲かせまくり、細い脚を思い切り開かせ…。
まるでハイエナのように震える果実を貪り喰らう。
そんな夢を。
この頃、よく見るようになった。
「限界も近いな…。」
あの異常な軽さを実感していなければ、すでに手中に収めていただろう。
鷹久の、あの窶れ果て凍えた躰を抱き締めたりしていなければ、今頃はきっと、睡眠時間を削ってでも毎日貪っていた筈だ。
「まったく、タイミングの悪い。」
本当ならば、出逢った当初に略奪していた筈だったのだ。
あづみの手から。
それが。
「アメリカのバカが…経済対策をドジりやがって…。」
丁度、椿が鷹久と出逢った時、アメリカ経済の急激な悪化で界桜グループも混乱していたのだ。被害を最小限に抑え込む為、椿も裏から表から打てる手をすべて打たなくてはならない状態で、暫く身動きが取れなかった。
それさえなければ…。
今更だが。
「立花。」
椿は再び助手席の秘書を呼んだ。
『はい。』
「鷹久たちの衣類を揃えたい。何処か良い店はないか。」
『それなら、ユニシロは如何ですか?』
「ユニシロ?」
『ええ。肌着からコートまで。頭のてっぺんから足の先まで殆ど揃います。価格もリーズナブルですし、最近は若手デザイナーを何人も起用してファッション性の高い質の良い物が揃っていると聴きます。何より、あの三人なら高級ブランド店に連れて行った時点で吐きますよ。きっと。』
「…。」
『貸し切りますか?』
「ああ、そうだな。極上天使の体調もあるだろうから、午前中貸し切ってくれ。」
『わかりました。』
「ところで、何処にある店だ?」
『桜宮(さくらのみや)大通です。』
「帝都中央か?」
『はい。西の大通。東京で言うと銀座ですか。』
そんな店、あったか? とは、聞かなかった。
大体、椿がいつもスーツをオーダーメードする店とて桜宮大通にあるのだ。言うまでもなく一流ブランド店が揃っている。
っていうか…。
「俺の土地に建ってるのか?」
『…。』
今頃気付かないでください。と、いう言葉を立花は必死で飲み込んだ。
財産管理にかなりの不安が残る椿である。
カテゴリー確認後、興味のある方だけ反転してね。
なんかコミケ中は寂しいのでblogに出没する事にした。
で、このカテゴリを追加。
小説の書き方、ちゅーサイトさんを覗いてみた。
うん。久しぶり。
私がこの世界(同人業界)に飛び込んだ時は本を読んだんだけど、書いてる事はあまり変わらないのね。
ただ、私が思うに、このサイト(全部じゃないですよ)はプロ志望向けに近いなぁ、と。
書いてる事は正しいのでしょうけど、個性が無くなるような…。
勿論、作品で個性を出せばいいだけでしょうけど、うーん。同人向けではない。尤もだけどね。
レイアウト的にどうかな、っていうのもあるし。
同人屋はページのレイアウトから何から何まで個人でやるのね。だから、そこからして個性が出るの。
私にとっては文章そのものもレイアウト。だからそのように書き上げてる。冊子はね。漫画じゃなくても出来るんだよ。そういう事。
そして、それが私の個性のひとつ。他にも色々他の同人屋さんと差別化する為にやっている事がある。
たとえば、カギカッコ。セリフの最後に「。」は付けない。一般的に。でも私は個性として同人屋を始めた頃からこの書き方をしてる。このサイトの小説も全部そう。ものを知らないのではなく、態々そうしてる。
勿論、同人屋だから出来る事。きっと賞狙いで投稿すれば一発で落とされるはず。
ただ、プロを目指そうとか、賞をもらおうとか、そういう事ではなく小説を書くのなら、正直、小説の書き方は自分で造り出した方がいいと思う。
ネットであろうと、冊子であろうと、自分が楽しむ為に書くなら、だよ。
なんかコミケ中は寂しいのでblogに出没する事にした。
で、このカテゴリを追加。
小説の書き方、ちゅーサイトさんを覗いてみた。
うん。久しぶり。
私がこの世界(同人業界)に飛び込んだ時は本を読んだんだけど、書いてる事はあまり変わらないのね。
ただ、私が思うに、このサイト(全部じゃないですよ)はプロ志望向けに近いなぁ、と。
書いてる事は正しいのでしょうけど、個性が無くなるような…。
勿論、作品で個性を出せばいいだけでしょうけど、うーん。同人向けではない。尤もだけどね。
レイアウト的にどうかな、っていうのもあるし。
同人屋はページのレイアウトから何から何まで個人でやるのね。だから、そこからして個性が出るの。
私にとっては文章そのものもレイアウト。だからそのように書き上げてる。冊子はね。漫画じゃなくても出来るんだよ。そういう事。
そして、それが私の個性のひとつ。他にも色々他の同人屋さんと差別化する為にやっている事がある。
たとえば、カギカッコ。セリフの最後に「。」は付けない。一般的に。でも私は個性として同人屋を始めた頃からこの書き方をしてる。このサイトの小説も全部そう。ものを知らないのではなく、態々そうしてる。
勿論、同人屋だから出来る事。きっと賞狙いで投稿すれば一発で落とされるはず。
ただ、プロを目指そうとか、賞をもらおうとか、そういう事ではなく小説を書くのなら、正直、小説の書き方は自分で造り出した方がいいと思う。
ネットであろうと、冊子であろうと、自分が楽しむ為に書くなら、だよ。
痩せた白い指先に、そっと指を絡めていた。
気付いたら、そうしていた。
何かの意味があった訳でも、そこに狡猾な思惑が蠢いていた訳でもない。
ただ。
眠ったまま泣き続ける少年を、離れて見つめ続ける事が出来なかっただけだ。
美貌だけに、栄養失調と一目で解る痩せこけた躰に、あのあづみですら気付かなかったのだろう。
人は、この少年の面(かお)に視線を奪われ、それ意外に目が行かない。
まして冬だ。
貧しいなりに暖かな服装をしていたのだから、そのスリム過ぎる体型になど気付く者は少ないだろう。
椿だとて、その背に触れて初めて気付いたのだ。
なんだ…この骨…。
異常に盛り上がった鷹久の背骨は、実際は肉付きの悪さが浮き彫りにしていただけで、病院に運び込んだ時は骨と皮の状態だったのだ。
二人の弟たちも栄養失調は辛うじて免れたものの、体重は平均を大きく下回り、その生活の悲惨さを物語っていた。
あづみの元で働き始め、その生活は格段に良くなって来てはいたものの、それまでの生活が三兄弟からまともな食欲を奪っていたらしい。入院して暫くはあまりの少食ぶりに栄養士が頭を抱えていた。
そんな中、末っ子の病気が発覚したのだ。
治療不可能な難病だった。
「DNAの配列異常?」
「はい。かなり珍しい症例です。それにしても、頑張りましたね。お兄さんたちは。普通の生活など出来ない身体ですよ。本当に、どれほど注意深く育てたのか。医師として頭が下がります。」
入院して二週間。
秋典の小さな身体を蝕んでいた病気が判明した。椿の「何より最優先させろ。」の鶴の一声で一カ月以上掛かる検査が二週間で終わったのだ。
だが、その病気は椿が想像していたより遥かに厄介なモノだった。
医院長室に連なる応接間で、椿は淡々と医師たちの説明を聴いていた。
「急激に老化が進むプロジェリア症候群という病気がありますが、秋典くんの場合はそれの逆。つまり、身体の時間の流れが異常にゆるやかなんです。この症例は数が少なく、日本では初めての確認でしょう。」
「それで。」
「はっきり言って、治療法はありません。異常に成長が遅い。それ以外の症状にも様々ありますが、DNAの配列異常が原因かどうか解っておりません。正直、異常な記憶力などは、この場合三兄弟そろってですから、まったく別な原因を疑わなくてはなりませんし。」
「今後は。」
「定期的な検査を受けて頂きます。秋典くんの場合は胃腸の働きが弱く、物を飲み込む力も不足しています。下痢や便秘を繰り返すのはその所為でしょう。こちらは薬で対処出来ます。更に骨の密度が足りていません。こちらはカルシウムの投与を。貧血については出血などの原因が見当たりませんので、食事療法を取る事になります。成長ホルモンの投与は時期を見て判断しますが、今は現状維持を心掛けた治療が望ましいでしょう。」
「精神的な成長の遅れは。」
「正直言って、治療は間に合いません。事件に巻き込まれての症状のようですが、その当時にカウンセリングなり投薬治療なりを受けていたなら兎も角、十年近く経っていては、治療にはその二倍か、それ以上の時間が必要になります。それに、精神的、肉体的治療を同時進行するのはまず無理です。ストレスでどちらかの治療が失敗に終わる危険性があります。それは避けた方がいい。いえ、こちらとしては避けたい。」
「ふむ。長期入院が必要か。」
「いえ。その必要性はないでしょう。逆に、病院にいる事で生じるストレスは治療の妨げにしかなりません。出来るなら生活環境の整った自宅で療養するのが一番でしょう。住まいは?」
「俺と同居する予定だ。」
「ならば話は早い。脳と身体。そして精神。いずれも安定していないと治療に差し障りが出ます。多少お金が掛かっても、まずは環境を整えてあげてください。今後の治療にあたっては、脳神経科、精神科、内科、消化器系・循環器系内科がチームを組んで全力で対応します。」
未だ病名さえついていないDNAの配列異常による成長の遅れは意外なほど重症だった。
それまで何も知らず暮らしていた二人の兄は言葉を失い、ただ茫然と椿の隣で医師たちの会話を聞いていた。
何も口は挟めない。そんな余裕などなかった。
ただ、医師が「よく頑張りましたね。」と言う度に、二人の兄の、いや、鷹久の神経は擦り減ってゆく。
もっと早く、ちゃんと施設にでも預けていたら。
もっと早く、自分が弟たちを手放していたら。
そんな思いばかりが鷹久を苦しめる。
母が死んだのは鷹久が16歳の時だ。頼れる親戚などもいなかった事から、母親が死んだ病院が児童相談所に通報し、それから毎日のようにやって来る民生委員などに施設へ入るよう説得されたのだ。何度も。
だが、三人一緒には暮らせないと知って、鷹久は施設行きをガンとして受け入れなかった。
これからの治療には、お兄さんたちの協力が不可欠です。
我々と一緒に頑張りましょう。
医師の声が遠くに聴こえる。
肩を抱き締めてくれる久秋の手の温もりが、遠い。
「兄貴…?」
もしも自分があの時…。
そう思ったら、鷹久の視界が真っ黒く塗り潰された。
擦り減った神経が限界を超えたのだろう。
ソファからズリ落ちた鷹久の躰を、椿がしっかりと支えた。
「兄貴っ!?」
慌てて鷹久に縋りつく久秋を傍にいた医師が支えると、ドアの傍に控えていた遠野がツカツカと寄って来て、医師の腕から奪うように細い身体を抱き寄せた。
「貧血だ。久秋、お前は秋典の傍にいろ。鷹久は別室で休ませる。」
椿は軽々と鷹久を抱き上げると、遠野に向かって連れて行けと目配せをした。
腕の中で、鷹久が泣き続ける。
その涙は、とても綺麗で、痛ましくて。
椿は痩せた躰を抱き締める腕にそっと力を入れた。
「もっと早く、出逢ってやりたかった…。」
溜息と共に零れ落ちた呟きは、誰の耳にも届く事はなかった。
気付いたら、そうしていた。
何かの意味があった訳でも、そこに狡猾な思惑が蠢いていた訳でもない。
ただ。
眠ったまま泣き続ける少年を、離れて見つめ続ける事が出来なかっただけだ。
美貌だけに、栄養失調と一目で解る痩せこけた躰に、あのあづみですら気付かなかったのだろう。
人は、この少年の面(かお)に視線を奪われ、それ意外に目が行かない。
まして冬だ。
貧しいなりに暖かな服装をしていたのだから、そのスリム過ぎる体型になど気付く者は少ないだろう。
椿だとて、その背に触れて初めて気付いたのだ。
なんだ…この骨…。
異常に盛り上がった鷹久の背骨は、実際は肉付きの悪さが浮き彫りにしていただけで、病院に運び込んだ時は骨と皮の状態だったのだ。
二人の弟たちも栄養失調は辛うじて免れたものの、体重は平均を大きく下回り、その生活の悲惨さを物語っていた。
あづみの元で働き始め、その生活は格段に良くなって来てはいたものの、それまでの生活が三兄弟からまともな食欲を奪っていたらしい。入院して暫くはあまりの少食ぶりに栄養士が頭を抱えていた。
そんな中、末っ子の病気が発覚したのだ。
治療不可能な難病だった。
「DNAの配列異常?」
「はい。かなり珍しい症例です。それにしても、頑張りましたね。お兄さんたちは。普通の生活など出来ない身体ですよ。本当に、どれほど注意深く育てたのか。医師として頭が下がります。」
入院して二週間。
秋典の小さな身体を蝕んでいた病気が判明した。椿の「何より最優先させろ。」の鶴の一声で一カ月以上掛かる検査が二週間で終わったのだ。
だが、その病気は椿が想像していたより遥かに厄介なモノだった。
医院長室に連なる応接間で、椿は淡々と医師たちの説明を聴いていた。
「急激に老化が進むプロジェリア症候群という病気がありますが、秋典くんの場合はそれの逆。つまり、身体の時間の流れが異常にゆるやかなんです。この症例は数が少なく、日本では初めての確認でしょう。」
「それで。」
「はっきり言って、治療法はありません。異常に成長が遅い。それ以外の症状にも様々ありますが、DNAの配列異常が原因かどうか解っておりません。正直、異常な記憶力などは、この場合三兄弟そろってですから、まったく別な原因を疑わなくてはなりませんし。」
「今後は。」
「定期的な検査を受けて頂きます。秋典くんの場合は胃腸の働きが弱く、物を飲み込む力も不足しています。下痢や便秘を繰り返すのはその所為でしょう。こちらは薬で対処出来ます。更に骨の密度が足りていません。こちらはカルシウムの投与を。貧血については出血などの原因が見当たりませんので、食事療法を取る事になります。成長ホルモンの投与は時期を見て判断しますが、今は現状維持を心掛けた治療が望ましいでしょう。」
「精神的な成長の遅れは。」
「正直言って、治療は間に合いません。事件に巻き込まれての症状のようですが、その当時にカウンセリングなり投薬治療なりを受けていたなら兎も角、十年近く経っていては、治療にはその二倍か、それ以上の時間が必要になります。それに、精神的、肉体的治療を同時進行するのはまず無理です。ストレスでどちらかの治療が失敗に終わる危険性があります。それは避けた方がいい。いえ、こちらとしては避けたい。」
「ふむ。長期入院が必要か。」
「いえ。その必要性はないでしょう。逆に、病院にいる事で生じるストレスは治療の妨げにしかなりません。出来るなら生活環境の整った自宅で療養するのが一番でしょう。住まいは?」
「俺と同居する予定だ。」
「ならば話は早い。脳と身体。そして精神。いずれも安定していないと治療に差し障りが出ます。多少お金が掛かっても、まずは環境を整えてあげてください。今後の治療にあたっては、脳神経科、精神科、内科、消化器系・循環器系内科がチームを組んで全力で対応します。」
未だ病名さえついていないDNAの配列異常による成長の遅れは意外なほど重症だった。
それまで何も知らず暮らしていた二人の兄は言葉を失い、ただ茫然と椿の隣で医師たちの会話を聞いていた。
何も口は挟めない。そんな余裕などなかった。
ただ、医師が「よく頑張りましたね。」と言う度に、二人の兄の、いや、鷹久の神経は擦り減ってゆく。
もっと早く、ちゃんと施設にでも預けていたら。
もっと早く、自分が弟たちを手放していたら。
そんな思いばかりが鷹久を苦しめる。
母が死んだのは鷹久が16歳の時だ。頼れる親戚などもいなかった事から、母親が死んだ病院が児童相談所に通報し、それから毎日のようにやって来る民生委員などに施設へ入るよう説得されたのだ。何度も。
だが、三人一緒には暮らせないと知って、鷹久は施設行きをガンとして受け入れなかった。
これからの治療には、お兄さんたちの協力が不可欠です。
我々と一緒に頑張りましょう。
医師の声が遠くに聴こえる。
肩を抱き締めてくれる久秋の手の温もりが、遠い。
「兄貴…?」
もしも自分があの時…。
そう思ったら、鷹久の視界が真っ黒く塗り潰された。
擦り減った神経が限界を超えたのだろう。
ソファからズリ落ちた鷹久の躰を、椿がしっかりと支えた。
「兄貴っ!?」
慌てて鷹久に縋りつく久秋を傍にいた医師が支えると、ドアの傍に控えていた遠野がツカツカと寄って来て、医師の腕から奪うように細い身体を抱き寄せた。
「貧血だ。久秋、お前は秋典の傍にいろ。鷹久は別室で休ませる。」
椿は軽々と鷹久を抱き上げると、遠野に向かって連れて行けと目配せをした。
腕の中で、鷹久が泣き続ける。
その涙は、とても綺麗で、痛ましくて。
椿は痩せた躰を抱き締める腕にそっと力を入れた。
「もっと早く、出逢ってやりたかった…。」
溜息と共に零れ落ちた呟きは、誰の耳にも届く事はなかった。
病気が悪化する前は、夏・冬、必ず参加してました。落ちない限り。
懐かしいなぁ。
来年から復帰したいなぁ、なんて。
思っているだけで、体調の悪化は進み続けるんですよね。
なんでウチのBLはこんなにダラダラ物語が進まないの?
答えは簡単。このblogがノーマルサイトに置いてあるから。BLのエロは得意分野だし書くのには問題ない。
ただ、やはり客層が違うし、という事。
本当は別館サイトを公開したいのだけど、無理出来ない体調なので迷ってる訳です。
璃羽はどうなった?
今、万葉集ネタ第三段を予定中。黒髪ですよ、奥さん(←誰?)。
黒髪でピンと来た方、アナタは流石です。
粉雪に関しては、だんだん読み辛くなって来ているような気がして、今、迷っているんですよね。
文体の変更とか、やっぱした方がいいかなぁ。
業界復帰は?
来年くらいを希望してるんですがねぇ。書きたい小説は二次を含め山ほどあるんですが、体力勝負の世界だから迷いも大きいです。
冬に一度入院しようかとも思ってるんですけど、入院しても治る病気ではないので、また無理したら意味なくなるし。入院したが最後、退院出来ない可能性もあり(苦笑)、まだ予定は未定ですね。
ただ、復帰するとしたら来年の春頃でしょうか。二次から始めて、後々オリジナルも書き下ろそうかと。
きっと通販業務は無理出来ないので書店委託になると思いますが、二次は同人誌、オリジナルはDL販売を予定中。
因みにオリジナルはBL。今連載中のモノではありませんよ(笑)。これを販売するには完全書き直しが必要になりますので。まぁ、書き直してもいいんですけどね。ネタには不自由してないので、書き下ろしがいいかな、と。
近況はこんなモノでしょうか。
報告終わり(笑)
懐かしいなぁ。
来年から復帰したいなぁ、なんて。
思っているだけで、体調の悪化は進み続けるんですよね。
なんでウチのBLはこんなにダラダラ物語が進まないの?
答えは簡単。このblogがノーマルサイトに置いてあるから。BLのエロは得意分野だし書くのには問題ない。
ただ、やはり客層が違うし、という事。
本当は別館サイトを公開したいのだけど、無理出来ない体調なので迷ってる訳です。
璃羽はどうなった?
今、万葉集ネタ第三段を予定中。黒髪ですよ、奥さん(←誰?)。
黒髪でピンと来た方、アナタは流石です。
粉雪に関しては、だんだん読み辛くなって来ているような気がして、今、迷っているんですよね。
文体の変更とか、やっぱした方がいいかなぁ。
業界復帰は?
来年くらいを希望してるんですがねぇ。書きたい小説は二次を含め山ほどあるんですが、体力勝負の世界だから迷いも大きいです。
冬に一度入院しようかとも思ってるんですけど、入院しても治る病気ではないので、また無理したら意味なくなるし。入院したが最後、退院出来ない可能性もあり(苦笑)、まだ予定は未定ですね。
ただ、復帰するとしたら来年の春頃でしょうか。二次から始めて、後々オリジナルも書き下ろそうかと。
きっと通販業務は無理出来ないので書店委託になると思いますが、二次は同人誌、オリジナルはDL販売を予定中。
因みにオリジナルはBL。今連載中のモノではありませんよ(笑)。これを販売するには完全書き直しが必要になりますので。まぁ、書き直してもいいんですけどね。ネタには不自由してないので、書き下ろしがいいかな、と。
近況はこんなモノでしょうか。
報告終わり(笑)