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2007.12。公開開始。 このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。 なお、ブログ中の掲載物につきましては「無断転載・無断使用を禁止」させていただきます。
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胸の先がシーツに擦れて、痛い。
さっきまで抱き締めていたクッションは何処かに転がり、腰だけを恥ずかしいほど
高く掲げたまま、私の躰は揺らされ続ける。
以前は怖くて、痛くて、苦しいだけだった行為。
特に後ろは痛みが酷くて苦手だったはずなのに、スティーブは難なく私のその部分
を慣らし、快楽の生まれる場所にしてしまった。
スティーブの動きに合わせて、聴こえる水音。
必死に堪えても溢れてしまう喘ぎ声。
恥ずかしい・・・。
恥ずかしいのに、気持ち良い・・・。
一体、どうしちゃったの・・・私の躰。
此処は、挿れる場所じゃないのに。
スティーブの甘い喘ぎが聴こえる。
その度、私の躰は喜びに震え熱くなる。
ダメ・・・ダメなのに。

このままじゃ、私・・・。
私・・・。

私。
スティーブに飼い馴らされて。
スティーブがいないと、生きて行けない躰になっちゃう・・・。

「可愛いね。ヒツジの枕。少し小さいけど。」
「ん・・・あ・・・文子さん・・・買って・・・くれ、てっ、あんっ。」
「何処に行って来たの? こんなの売ってる店って、何処?」
「あぁ・・・んぁっ。つばき、さん、が・・・連れて・・・くれ・・・あぁっ。」
「椿のヤツ・・・んっ。姫ちゃん・・・感度、良過ぎっ。そんな、締め付けないで
くれ、る。腰の動き、卑猥過ぎ、だ。あ、もう・・・イ、きそ。」
「スティーブ・・・ンッ。ん、んぁっ。」

スティーブが、私の中で何度目かの絶頂を迎えた。
私は、全身を震わせてその熱い迸りを受け止める。
もう、何度躰を重ねたんだろ。
私、自分がこんなに淫乱だったなんて知らなかった。
躰が、スティーブを求めて止まらなくなる。
どうしよう・・・怖い。

「姫ちゃん、凄い・・・。」
「・・・?」
「まさか、ここまで感じられるようになるとは思ってなかったんだ。」
「スティーブ・・・?」
「凄く怖がってたから。気持ち良くなれないようなら、慣らすの止めるつもりだった
んだ。本当はね。でも・・・。」
「んっ・・・あっ、あっ、んっ。」
「コッチが、これだけ感度が良いって事は・・・。」
「な・・・に・・・?」
「いや。何でもないよ。」
「スティーブ・・・。」

もしかしたら。
スティーブは知っているのかもしれない。
私を捜したと言っていた。
だとしたら。
知っているのだろう・・・。
私が中絶した事を。
だから、触れないのだ。
スティーブは。
私の中に、本当の意味で触れた事はない。

 

『子供・・・諦めたのね。』
銀座で買い物三昧  私にとっては  な時間を過ごした後、車の中で文子さんが
言った。
『私は二児の母よ。貴女の妊娠には気づいてたわ。ウィンは知らなかったの?』

文子さんは、私とディアンさんの事は知らないようだった。当然のように、私のお腹
の子をウィンの子供だと思っていたのだろう。
それでいい。何も言う必要はない。
もう、子供はいないのだ。
それだけが事実であり真実なのだから。

『産む、という選択肢はなかったのかしら。』
はい・・・。
『そう。』

他の選択肢など、私にはなかった。
赦されるはずのない、歓迎されるはずもない妊娠だったのだから。

『残念ね。貴女が妊娠してた事、まだ誰も知らないの?』
解りません・・・スティーブも、何も聞かないので。
ただ、知っていたとしても。
もう、終わった事ですから・・・。
『璃羽ちゃん・・・。』
すみません。
『貴女が謝る事ではないわ。ごめんなさいね。ただ、可愛い赤ちゃんを抱いた貴女
に会える事を期待していたの。子供に、罪はないから。』
・・・。
『貴女にも、罪はないのよ。』

いいえ、違います。文子さん。
すべての罪は私にあるんです。
私が、この世に存在する事こそが、きっと罪以外の何ものでもない。
父という存在が、母という存在が、私に投げつけた言葉に嘘はなかった。

生まれなければ良かった。
今でもそう思っている。

せめて、兄という存在の生きる糧になれていたら。
私は両親という存在に感謝される事はなくても、捨てられるほど憎まれはしなかっ
たかもしれない。
兄は今も生きていて、私の事を覚えていてくれたかもしれない。
墓なんてなくていい。
命日なんて忘れ去られてもいい。
ただ、記憶の端に。
家族の一人として残れたならば。
きっと、それは・・・。
それも、私にとって、幸せの、ひとつの形だったかもしれない。

妊娠していると知った時。
私の中に芽生えたのはディアンさんに対する罪悪感だった。
私なんかが・・・。
それだけだった。
ディアンさんにも、スティーブにも、帰るべき場所があって。
この世界の何処かに、二人に相応しい人がいて。

足を引っ張ってはいけない。
他人に迷惑を掛けてはいけない。
子供を、不幸にしてはいけない。

産んだとしても、幸せに出来ない事は解っていた。
自分の子供にまで、憎まれたくはなかった。

そう。
それが本当の理由だ。
私は。
もう誰にも憎まれたくなかった。
だから中絶した。
ただ、それだけ。
私の真実など、そんなものだ。

私の罪が赦されるなんて思った事はない。
一生後悔し続けるであろう事も解っていた。
それでも、産んではいけないと思った。

望まれない子供。
私の分身。
同じ思いをさせたくない。
私自身、その子供を愛せたかどうか・・・。
愛された記憶がないから。
愛し方が、解らない。
それは言い訳でしかないのだろうけれど。

結局、私は。
誰にも必要とされない子供を産む勇気は、なかった・・・。

『スティーブに、相談しようとは思わなかったの? 私でも良かったけれど。』
すみません。
『いいのよ。ただ、彼ならどんな事をしても産んで欲しいと言ったんじゃなくて?』
だから・・・相談出来ませんでした。

例え誰の子であろうと、スティーブは産む事を望んだろう。
自分が一生面倒を見ると。
自分が父親になると。
言ってくれただろう。
でも・・・。

罪は罪。
けれど、その罪を犯さない事で生まれる悲劇もまた罪だ。

私には、他の選択肢などなかった。
不幸にすると解っている子供を産む勇気などなかった。
例え、他の選択肢があったとしても、きっと結果は同じ。

私は、子供を産んではいけない女だ。
私を母と呼ぶ子供ほど哀れな存在はないだろう。
だったら、最初から産まれない方がいいのだ。

私が、そうだったように・・・。

『ディアンにも、相談しなかったの?』
え・・・。
『まぁ、彼には言い辛いかもしれないけど。好きだったんでしょ? なんとなく、
そうじゃないかって思ってた。貴女、顔に出易いから。』
・・・。
『ウィンが、貴女をレイプしたのも。それが原因でしょう。悲しいけれど。』
どうし・・・て。
『ウィンが打ち明けてくれたから。亡くなる、三カ月くらい前だったかしら。』
ウィン、が?
『ええ。無理やり自分のモノにしたって。誰にも盗られたくなかったって。それ
から、貴女から何か相談されたら、どんな事でも力になって欲しいって。頼まれ
てたの。結局、貴女はいなくなってしまったけど。』
そんな事を・・・ウィンが。
『最期まで貴女の事を心配してたんだと思うわ。だから、産んで欲しかったわ。
ううん。貴女の事だから、きっと産むと思ってた。責めてる訳じゃないのよ。
貴女は悪くない。ただね。』
・・・。
『ディアンだって、貴女が相談したらきっと産んで欲しいと言ったはずよ。』
文子さん。
『彼は、結構子供好きみたいだし。ディアンとスティーブがいたら、子供を育て
るのも難しくはなかったでしょう? 璃羽ちゃんがどうしてそうしなかったのか、
私にはとても不思議なの。』
・・・。
『ウィンの子供は、産みたくなかった?』
文子さん。
もう、その話は止めてくださいませんか?
『璃羽ちゃん?』
忘れたいんです・・・。
私。
『そう・・・。ごめんなさいね。』
いいえ・・・。
文子さん、ゴメンナサイ。
『いいのよ。』
ゴメンナサイ。


文子さん。
貴女は、何も知らない。
だから、もう。
何も言わないで。
これ以上、私の心を掻き乱さないで。

出逢わなければ良かった・・・。
ウィンにも、スティーブにも、ディアンさんにも。
そうすれば。
都会の片隅で、私のちっぽけな人生は静かに終わっていた。
苦しくて、哀しくて、辛いだけの恋などする事もなく。
ただ生きて、ただ死ねた。
それが、私に相応しい一生だったのに。

出逢ったりしなければ。
好きになったりしなければ。

私なんて・・・。
生まれなければ良かったのに    

 

    声音 Ⅹ    

 

いつも泣かせてばかりいた。
いつもいつも辛い思いばかりさせてしまった。
眼の前からいなくなって、初めて気づいた。

あの不器用な微笑みを。
あの哀しげな眼差しを。
私は、どれほど愛していたのだろう。

失ってから気づくなんて、最低だ。
その上・・・。

考えた事もなかった。
子供。
私と姫の。
する事をしていれば出来て当たり前だったのに。
どうして。
まるで頭になかった。
ただ、夢中で抱き締めていただけだった。

姫の躰から、ウィンの影を消してしまいたかった。
彼女がウィンに抱かれている間、どうやってスティーブの眼を誤魔化そうかと
そればかり考えていた。
いずれ知れてしまうとは思っていたが。
邪魔をして欲しくなかった。

いつもいつも。
泣いて痛がる姫の躰をバスタブに入れて、優しくそのすべてを癒していたのは
スティーブだった。
あの長い髪を、あの華奢な躰を、洗って、手当して、自分のベッドで眠らせて。
一体彼は、どんな風に姫に触れていたのだろう。
何を思って、大切に大切に扱っていたのだろう。
時折、濡れた女の眼差しでスティーブを見つめる姫がいた。
特に、私が手酷く抱いた翌日はそうだった。
蕩けた蜜のような瞳。
甘く濡れた唇。
本人に自覚はなかったようだが。
よく、手を出さないものだと、半ば呆れていた。

スティーブ。
自由奔放な私の義兄。
誰よりも女が必要なクセに。
一度に何人もの女を抱いて愉しんでいたクセに。
どうして姫だけには手をつけなかったのか。
妹のように思っていたのか。
それとも、ただ単に好みの女じゃなかっただけか。
どちらにしろ、姫のスティーブに対する信頼が揺るぎないものとなるのに大し
た時間は掛からなかった。

姫とスティーブの不思議な関係。
今は、少し違っているだろう。

迎えのヘリに飛び乗り、私が飯田と合流したのは、姫からの電話があってから、
丁度20日目の事だった。
マンションから地方のホテルへ。途中、小さな飛行場に寄り、飯田を拾った。
合流した飯田は、相変わらずのポーカーフェイスで淡々とPCに向かい、仕事を
しながら姫が連絡をして来た理由を説明した。
くだらない。
けれど、その咲オバアチャンとやらには感謝しなくてはならないだろう。
事件が起こらなければ、きっと姫を捜し出す事など不可能だった。
あの姫が、過疎地の農家で働いていたなんて。

「それで、姫の健康状態は?」
「至って良好のようです。勿論、検査は必要ですが。」
「そうか。飯田。」
「はい。」
「ひとつ聞きたい。」
「なんでしょう。」
「姫は、スティーブと関係を持ったのか?」
「・・・。」
「否。どちらでも良い事だな。私には何も言う権利などないのだから。」

飯田の曖昧な微笑が、すべてを物語っているような気がした。
姫を散々傷つけ、苦しめ続けた私と。
姫を支え、癒し続けたスティーブ。
最初から結末など見えている。

それでも、逢いたいと願うのは。
結局、私の我儘でしかない。

 

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