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2007.12。公開開始。 このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。 なお、ブログ中の掲載物につきましては「無断転載・無断使用を禁止」させていただきます。
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ベッドの軋みで目が覚めた。
だるい躰を起こす事が出来なくて視線だけを向けると、サングラスを外すスティーブ
がいた。
何処かに出かけるのだろうか。
真っ白いミンクのコートが目に眩しい。
一瞬、何処のマフィアさんですか・・・と思ってしまった。

「目が覚めた? 大丈夫?」
大きな手が、優しく私の頬を撫でる。
私は、死んだように眠っていたらしい。
大丈夫って・・・大丈夫な訳、ない。
うつ伏せたまま動けないのがその証拠。
脚腰立たなくなるくらい私を抱いたのは誰?
視線で抗議すると、やわらかな苦笑が降って来た。
深い接吻けと一緒に。

「何処に行くの?」
やっとの事で囁いた。
叫び過ぎて喉が痛い。
声が出ない。
躰を起こそうとして、失敗。
スティーブはケロリとしてるのに。
体力の差は歴然だった。
「帰って来たんだよ。」
「?」
「二時間ほど、出掛けてたんだ。」
仰向けにしてもらって、首を傾げたら、ふわっ、と。
ミンクのコートに包まれた。
襟と袖口にチンチラ。
シェアードミンク(短く毛がカットされたミンク)の独特な光沢が綺麗。
でも・・・。
この超ロング丈は。
やっぱりマフィアさんに見える・・・。

「今、変な事考えたでしょ・・・。」
「ちょっと・・・。」

だって。
昔、テレビで観たイタリア映画に出て来るようなスタイルなんだもの。
日本人じゃ、着こなすのはまず無理だよ。
やわやわと素肌を撫でる感触にうっとりしてたら、大変な事に気が付いた。
私の躰、汚れたままだ。
「ス、スティーブ。コート、汚れちゃう。」
慌てて腕の中から逃げようとしたら、きゅっ、て私を抱き締める腕に力が入る。
「大丈夫。覚えてないの? ちゃんとお風呂に入れたよ?」
いつの間に。
そう言えば・・・この部屋。
きょろきょろと室内を見回せば、違う。
この寝室。朝眠っていた部屋と違う。
「・・・ここ。」
「ああ、ベッドメイクの為に寝室を変えたんだ。もう終わってる。」
「・・・。」
ス・・・スティーブ。
ベッドメイクって・・・あのベッドの上も・・・。
私、きっと茹でタコだ。
でも、スティーブは余裕の笑み。
「メイドにやってもらった。大丈夫。ここのメイドは訓練が行き届いてるから。」
た、確かに。
このホテルのメイドは凄いと聞いた事がある。
制服は黒のパンツスーツ。靴はヒール5センチ。エプロンは腰から下のハーフタイプで
ストレート。髪はピシッと纏め上げ、両手には真っ白い手袋。
更に、家具調度品から寝具まで、この部屋に置かれているブランド品のすべての知識
を持っている。
その上、最低でも三か国語を習得済み。PCの扱いからクリーニングに至るまで、完璧。
間違ってもヒラヒラのふわふわメイドではありません。

「お腹空いたでしょ? 今、何か作るね。」
「・・・うん。」
「出来るまで寝てていいよ。」
「うん。」

コートを脱ぐ後姿。
やっぱり・・・うーん。マフィアさんだ。

「あれ?」
ふと、左手に違和感。
見ると、中指に指輪。
「え・・・。」
キラキラ。キラキラ。
プラチナの台に埋め込まれた蒼いダイヤの輝き。
後で、お守り、と言われた。



    再会 Ⅸ    



捨てられた仔犬。
否。
汚い段ボール箱に捨てられた仔猫、かな。
他の仔猫は全部拾われてゆくのに、ポツンと残されて、雨が降っても箱から出られ
なくて、ふるふる震えてる仔猫。
やっと抱き上げてくれる手が現れても、戸惑うだけで甘え方が解らない。
そんな感じ。

ぐっすりと眠っている姫ちゃんをバスルームに運んで、ゆっくり堪能した。
クセになる躰をしている。
男泣かせだ。
ウィンやディアンが夢中になった気持ちが解る。
自覚はないようだが・・・。
早くサロンで手入れしてやらないと。
髪も、肌も、爪も。
一年半の垢をしっかり落とさなくちゃ。

しばらくして、携帯が鳴って、待っていた情報が手に入る。
姫ちゃんの傍では出来ない相談。
ぐっすり眠っていたので外出する事にした。
椿の運転するオフ・ホワイトのリムジンには既に飯田の姿がある。
受け取ったのは数枚の書類。
隅々まで確認して、大きく溜め息を吐いた。
遺産相続の件で横やりを入れて来た連中がいるのだ。
ウィンの遺言により姫ちゃんに譲られる事となった遺産の一部。
それに噛み付いて来たのはウィンの父親の別れた妻。
バカらしい。
浮気をして離婚された身で。
だが、嫌な部分を突いて来たので調べさせていた。
「・・・ツメが甘いな・・・ディアン。」
こんなんじゃ姫ちゃんを護れない。
「どうします?」
「握りつぶせ。徹底的に、だ。手段は選ぶな。」
「解りました。」
飯田との会話はそれだけ。
何か聞きたそうにしているので、知りたがっている事に話題を変えた。
勿論、飯田が知りたがっているのは姫ちゃんの事だ。
もう暫く様子を見る。
精神的な動揺が一番姫ちゃんには堪えるだろうから。
飯田は納得している。
再会した姫ちゃんが想像していたより健康そうだったからだ。

オバアチャンの方は未だ動かせず。
ホテルでの滞在期間は長くなりそうだった。

高級リゾートを売り文句にしている街中をドライブして、途中、某ホテルでのイベント
にぶつかった。
日本ではそこそこ名の通った高級なホテルだ。
季節の変わり目で人の集まらない時期に大きなイベントを開催したらしい。
『世界の宝石とその魅力』
そんな煽り文句に立ち寄ってみたら驚いた。
昵懇にしているイタリア・ブランドが出店していたのだ。
目玉の展示は三億のダイヤ。
つまらん。
だが、ひとつだけオレの目を惹いた指輪があった。
蒼いダイヤの指輪。
細身で華奢でシンプル。
立て爪じゃなくて、埋め込みで、大きさも手頃。
姫ちゃんに似合うと直感した。
「本店から取り寄せては如何です?」
そんな安物を、と飯田の眼が言っていた。
だが。
「お守りにするんだ。価格も手頃な物で良い。中指用だから。」
安くても良いんだよ。
姫ちゃんに似合って、姫ちゃんが気に入ってくれたら。

飯田に向かって悪戯なウィンクひとつ。
やれやれと溜め息を吐く飯田の目の前で三百六十万円の衝動買い。


早く帰ろう。
姫ちゃんが目覚める前に。

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