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2007.12。公開開始。 このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。 なお、ブログ中の掲載物につきましては「無断転載・無断使用を禁止」させていただきます。
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ここは、まるで海の底だ…。
ならば、この少年は海神か。
16歳だというが、とてもそうは見えない。落ち着き払った態度といい、物腰といい、口調といい。
海斗は椿の少年時代を想像してみた。きっと久秋と重なり合う部分が多いだろう。
勿論、海斗は椿の少年時代など知らないが。
言ってしまえば、久秋は極道向きの男なのだ。
多分、その事を周囲の男たちも、本人も知っている。
ただ、誰も言わないのだろう。

言葉にすれば、運命は動く。
本人の意思に拘る事無く。
それは、避けねばならない。
極道に、明日の約束はないからだ。
その世界に、他人の言葉で、思惑で、久秋を喰わせる訳にはいかない。
何より、椿がそんな事を許すまい。
たった今、久秋に会ったばかりの海斗ですら、惜しいとは思うが。

海斗の視線の先。
黒い世界に佇む少年は、闇の帝王と本当によく似ていた。

「ところで、鷹久さんは。」
遠野の声に、海斗は我に返った。
この部屋は、異質だ。気付けば物思いに囚われる。
「ああ、風呂の準備。秋の着替えを取りに。いつ紫朗さんが来るかって、秋、待ってるって動かなくて。ほんとはもう寝てる時間だし。」
「それは、申し訳ない事をしてしまいましたね。で、その秋典さんは。」
「ん? 雀のかくれんぼ。」
「…なるほど。」
久秋の言葉に、遠野が笑う。
二人の視線の先には漆黒のスポーツ・カーだ。
海斗が目を凝らすと、何やら中で蠢いていた。

『どんなに上手に隠れても、かわいいオツムが見えてるよ。』

ああ、車の中に隠れてこちらを見ていたのか。
光の反射でよく見えないが、確かに人影がある。
「ちょっと待ってて。」
久秋はそう言うと、ゆったりとした足取りで車に近づいた。
指先でコンコンとウィンドーを叩く。
と、カチャ…と音がしてドアが開き、真っ白い塊が二つ、転がるように飛び出して来た。
「へ?」
海斗が妙な声を出すと、遠野が、ああ、忘れていた。と苦笑した。
「椿さんのペットだ。アフガン・ハウンドの『白尾(ハクビ)』とメイン・クーンの『太郎』。白尾はその名の通りアルビノだ。」
「アルビノ…。」
確かに、これほど白いアフガン・ハウンドなど海斗は見た事がない。
海斗を警戒しているのか、白尾は顔だけを海斗に向けて、体で壁を作るように久秋の背に立っている。
「鷹久さんが、いつも『弟たちを守ってね』と言うものだから、白尾は知らない人間が来ると二人から離れないんだ。ヘタに近づくなよ。襲いかかって来るから。太郎はマイ・ペースだな。」
苦笑する遠野の視線の先、緊張する白尾とは逆に太郎はすっかりソファで寛いでいる。

久秋は、自分の肩幅程度に開いたドアの前に膝をついて、何やら話をしているようだ。
人見知りが激しいのだろうか。秋典はなかなか出て来ない。
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