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2007.12。公開開始。 このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。 なお、ブログ中の掲載物につきましては「無断転載・無断使用を禁止」させていただきます。
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手の中の携帯を見詰めたまま固まっていた。
ディスプレイを飾る名に心臓を鷲掴みにされたまま。
それでも。
「あっ…。」
鳴り続けていればいずれは止まる。
その事にやっと気付いて鷹久はワタワタと携帯を弄くった。
「切れないでっ。」
使い慣れない小さな電話に心細げに頼んでみた。
携帯なんて初めて持った。いや、実際は持たされたのだが。
弟たちが色々と弄くって遊んでいるのを眺めながら、鷹久は、壊れたらどうしよう、などと考えていたのだ。使い慣れようなんて思うはずもない。
今頃になってその事を後悔しながら、泣きそうな顔でワタワタ弄くって、やっと耳に押しあてた。

『鷹久?』
鼓膜を撫で上げるバリトンに鷹久の心臓がキュンと鳴く。
『どうした?』
寝るには早い時間帯だ。
椿が不審に思うのも無理はないだろう。
「あ…。」
『?』
「け…携帯…使い慣れてなくて…。ごめんなさい…。」
『何かあったのかと思ったぞ。』
「ごめんなさい。」
『謝る事ではない。何事もないか?』
「…。」
ない、と即答しなくてはならなかったのに、目の前の現実に答えが一瞬遅れた。
そうだ。どうしよう、コレ。
その沈黙を椿が逃す訳もない。
『何があった?』
部下が見たら卒倒しそうなほど眉間に皺を寄せ、椿は鷹久の答えを待つ。
が。ボロボロになってしまった服を指先で玩(もてあそ)びながら、椿の声に聴き惚れる鷹久にそんな椿の苛立ちが解る筈もない。
ダメだ。この声、凶器に近い。などと携帯から聴こえる声に頬を染めながら、鷹久は言葉に詰まって俯いた。誰かが見ていたら襲われそうな色っぽさで。
「あ…えっと…。」
『ん?』
「あの…なんでもない…です。」
その戸惑った色っぽい声の何処が何でもないんだ。
椿は鷹久に聴こえるよう小さく溜息を吐く。
鷹久の悪い癖だ。まだ18のガキのクセに、妙に遠慮深い。
と、言っても、自分たち兄弟の立場が曖昧なままなのだから仕方ないが。
『鷹久。俺は神様でも超能力者でもないんだ。言葉にしなくては解らん。』
「…。」
『何かあったのか?』
「あの…洗濯機が…最新型で…服が…。」
ごにょごにょごにょ。
『…。鷹久…。』
今度は、盛大な溜息を噛み殺す事にした椿である。
『要は、着る物がないんだな?』
「…はぃ…。あ、少し、あります…。」
『お前な…。』
その少しだって洗濯機を使えばダメになるんだろうが…。
怒鳴りたい…でも怒鳴れない。
惚れた弱みとはよく言ったものだ。
『今夜、帰る。日付が変わるだろうから待たなくていい。明日は朝から買い物に出掛ける。』
「…え。」
『何だ?』
「あの…帰って来て…くれるんですか…?」
何だ、それは。俺は家出した亭主か何かか?
『何だ…帰ったら悪いのか?』
ちょっと意地悪く言ってみた。
どうする、鷹久。
「そ、そんなっ。あのっ。」
『…。』

「早く…帰って来て…ください…。」
なんだ。やっぱり俺は亭主か。
「あの…起きて…待ってますから…。」
『解った。』
悪くない。
早く新妻にしてやるか。




ちょっとコメディっぽくしてみた…よりによってこの二人でコメディかよ、自分。
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