2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
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----急に現金が必要になった。
そんな電話で椿が個人資産から十八億の出費を即決したのは気まぐれからだ。
元々、金を湯水のように使うタチの男ではなかったが、莫大な収入の割には極端に出費の少ない男だった。
無論ケチな訳ではなく、はっきり言ってしまえば使っている暇がなかった、というところに落ち着くだろう。学生時代から現在まで、遊びや趣味に興じている時間も余裕もない有様だったのだ。大体、遊びだの趣味だの、そんな時間と余裕があるのなら寝ていたい。その実にシンプルな欲望だけが椿の望みのすべてであった。
今更ではあるのだが、椿という男はその数多(あまた)ある肩書とは裏腹に、実につまらない人生を過ごして来た。
そんな椿がいきなりの大物買い。大出費である。翔一郎でなくても椿を知る人間ならば好奇心を抑えられないだろう。
都心の一等地。界桜グループが所有する超高級マンション。建築中に何度か訪れたその場所は、夜になると足元に宝石が散らばっているかのような夜景が楽しめる。
その最上階ともなれば、見下ろす優越感もひとしおだろう。
一年前までは左団扇だったIT企業の会長が、今は金策に走り回るご時世となった。このままでは死ぬしかない。そう電話越しに命乞いする男を救ってやる義理はないが、買い叩いておいて損は無い。見栄を張って購入した際の値は、現在価格の数倍にもなるだろうに、男は十八億で手を打つという。そうとう追い詰められているのだろう。
尤も、そんな事はどうでも良い。かつて見た高層階からの眺めを思い出し、椿は涼しげな眼元に深い笑みを刻む。
あれに似合いそうだ…。
フッと脳裏を過ったたおやかな美貌。
万人が平伏すであろう翔一郎の美貌とは一味違う、けれど絶世の美貌と称されるに相応しい面(かお)を思い出し、椿は散財を決行した。取引銀行が一時騒然となるような素早さで。
「名義は私のものですが?」
「そんな事は知ってる。問題は…。」
アレは、誰?
意味深な翔一郎の視線に椿は苦笑する。
思えば34年の付き合いだ。生まれた時から一緒だった翔一郎に隠し事など出来そうにない。
「まだ、紹介できるほどの関係ではありません。」
「兄…。自分名義とはいえ、超が付く高級マンションに住まわせておいて、それはないだろう?」
「本当ですよ。まだ、触れた事はありません。」
正確には、怖くて触れられない、といったところか。
「本当に?」
「ええ。まだ子供なんです。」
椿の一言に、翔一郎は眼をまん丸にした。
そう。彼はまだ子供。
穢れを知らぬ十八の子供なのだ。
そんな電話で椿が個人資産から十八億の出費を即決したのは気まぐれからだ。
元々、金を湯水のように使うタチの男ではなかったが、莫大な収入の割には極端に出費の少ない男だった。
無論ケチな訳ではなく、はっきり言ってしまえば使っている暇がなかった、というところに落ち着くだろう。学生時代から現在まで、遊びや趣味に興じている時間も余裕もない有様だったのだ。大体、遊びだの趣味だの、そんな時間と余裕があるのなら寝ていたい。その実にシンプルな欲望だけが椿の望みのすべてであった。
今更ではあるのだが、椿という男はその数多(あまた)ある肩書とは裏腹に、実につまらない人生を過ごして来た。
そんな椿がいきなりの大物買い。大出費である。翔一郎でなくても椿を知る人間ならば好奇心を抑えられないだろう。
都心の一等地。界桜グループが所有する超高級マンション。建築中に何度か訪れたその場所は、夜になると足元に宝石が散らばっているかのような夜景が楽しめる。
その最上階ともなれば、見下ろす優越感もひとしおだろう。
一年前までは左団扇だったIT企業の会長が、今は金策に走り回るご時世となった。このままでは死ぬしかない。そう電話越しに命乞いする男を救ってやる義理はないが、買い叩いておいて損は無い。見栄を張って購入した際の値は、現在価格の数倍にもなるだろうに、男は十八億で手を打つという。そうとう追い詰められているのだろう。
尤も、そんな事はどうでも良い。かつて見た高層階からの眺めを思い出し、椿は涼しげな眼元に深い笑みを刻む。
あれに似合いそうだ…。
フッと脳裏を過ったたおやかな美貌。
万人が平伏すであろう翔一郎の美貌とは一味違う、けれど絶世の美貌と称されるに相応しい面(かお)を思い出し、椿は散財を決行した。取引銀行が一時騒然となるような素早さで。
「名義は私のものですが?」
「そんな事は知ってる。問題は…。」
アレは、誰?
意味深な翔一郎の視線に椿は苦笑する。
思えば34年の付き合いだ。生まれた時から一緒だった翔一郎に隠し事など出来そうにない。
「まだ、紹介できるほどの関係ではありません。」
「兄…。自分名義とはいえ、超が付く高級マンションに住まわせておいて、それはないだろう?」
「本当ですよ。まだ、触れた事はありません。」
正確には、怖くて触れられない、といったところか。
「本当に?」
「ええ。まだ子供なんです。」
椿の一言に、翔一郎は眼をまん丸にした。
そう。彼はまだ子供。
穢れを知らぬ十八の子供なのだ。
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