2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
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東城海斗(トウジョウ カイト)が兄とも慕う遠野紫朗(トウノ シロウ)と共にそのマンションを訪れたのは、まだ寒さの残る二月の初めだった。
海斗は調理師免許と栄養士の資格を持ち、遠野が五年前から帝都に構えている組事務所で若い衆の世話を一手に引き受けていたのだが、突然、その任を解かれて連れて行かれたのが界桜タワー・帝都レジデンス最上階にある椿匡雅の所有する大邸宅であった。
「注意するのは三つ。」
遠野と海斗を乗せた黒塗りのベンツが地下駐車場に入る頃、唐突に遠野が話を始めた。妙な先入観を持たせない為に、話すタイミングを計っていたのだろう。
「あ、はい。」
「長男の鷹久さん、二男の久秋さんは、14歳になる末っ子の秋典さんを中心に生活している。だから、前以って知らされるすべての予定は未定と思って時間には常に余裕をもっている事。」
「予定は未定…ですか。」
遠野の話に、海斗は幽かな違和感を感じ小首を傾げた。最初に聞いていた話は、三兄弟の食事の世話をして欲しい、という事だけだったからだ。
「そうだ。秋典さんは多くの病気を持っている為、予定通りに事は運ばないし、事情が事情だけにこちらの都合を押しつける訳にもいかないんだ。」
「病気?」
「難病だ。すぐに解ると思うが…治療法がない。現在14歳になるが、見た目は小学校一年生くらいだろう。成長がゆっくりとしている。と、同時に内蔵も未発達なんだ。体調の管理をしなくては、生死に拘る事態になりかねん。だが、椿さんをして『極上天使』と呼ぶほど愛くるしい顔立ちをしている。」
「極上天使…ですか。」
あの恐ろしい男が、どんな顔をしてそう呼んだのだろう。
口元を引き攣らせた海斗の様子に、遠野は苦笑する。
「ああ。まぁ、この三兄弟は…なんというか。」
会えばすべてが解るのだが。
「次に。秋典さんの前では、絶対大声を上げないでくれ。怒鳴ったり、ヒスを起こしたり。特に荒っぽい言葉遣いは絶対にダメだ。」
「…。」
極道相手に無茶な事を…。思わず天を仰いだ海斗だったが、考えてみれば海斗自身は極道ではない。気性もおおらかで、その穏やかな言動は子供には好かれ易いだろう。だから遠野は海斗を選んだのだ。
遠野の言葉の端々に、秋典という子供に対する繊細な心遣いが見て取れる。
「秋典さんは幼い頃、暴力事件に巻き込まれていて…まぁ、すぐに解る事だが…精神状態が少し未発達なんだ。」
「え…。」
「保育園児のまま、精神の成長が止まっている。だから言動が見た目の容姿より遥かに幼い。」
「つまり…14歳でありながら見た目は6、7歳で。その上、精神状態が3、4歳という事ですか?」
「そうだ。」
「それは…。」
何が食事の世話だ。これでは保父の真似事をさせられるようなものである。普通に世話をするにもかなりの覚悟がいりそうだ。
隣に座った遠野の横顔を見詰めたまま、海斗は溜息を噛み殺す。しかし、遠野の話はそれだけではなかった。
「実は、それだけじゃない。」
遠野の言葉に、海斗はガックリと項垂れる。これ以上何があるというのか。
「まだ、何かあるんですか?」
もう、矢でも鉄砲でも持って来い、だ。海斗の心境を知ってか知らずか、遠野は正面を見つめたまま苦笑する。
すでに二人が乗った車が駐車されて随分と経っていた。
「ああ。最後の注意に関連しているんだが…。」
「何です?」
「この三兄弟は…揃いも揃って天才児なんだ…。」
「はぁ?」
海斗の素っ頓狂な声に、遠野は苦く苦く笑った。
海斗は調理師免許と栄養士の資格を持ち、遠野が五年前から帝都に構えている組事務所で若い衆の世話を一手に引き受けていたのだが、突然、その任を解かれて連れて行かれたのが界桜タワー・帝都レジデンス最上階にある椿匡雅の所有する大邸宅であった。
「注意するのは三つ。」
遠野と海斗を乗せた黒塗りのベンツが地下駐車場に入る頃、唐突に遠野が話を始めた。妙な先入観を持たせない為に、話すタイミングを計っていたのだろう。
「あ、はい。」
「長男の鷹久さん、二男の久秋さんは、14歳になる末っ子の秋典さんを中心に生活している。だから、前以って知らされるすべての予定は未定と思って時間には常に余裕をもっている事。」
「予定は未定…ですか。」
遠野の話に、海斗は幽かな違和感を感じ小首を傾げた。最初に聞いていた話は、三兄弟の食事の世話をして欲しい、という事だけだったからだ。
「そうだ。秋典さんは多くの病気を持っている為、予定通りに事は運ばないし、事情が事情だけにこちらの都合を押しつける訳にもいかないんだ。」
「病気?」
「難病だ。すぐに解ると思うが…治療法がない。現在14歳になるが、見た目は小学校一年生くらいだろう。成長がゆっくりとしている。と、同時に内蔵も未発達なんだ。体調の管理をしなくては、生死に拘る事態になりかねん。だが、椿さんをして『極上天使』と呼ぶほど愛くるしい顔立ちをしている。」
「極上天使…ですか。」
あの恐ろしい男が、どんな顔をしてそう呼んだのだろう。
口元を引き攣らせた海斗の様子に、遠野は苦笑する。
「ああ。まぁ、この三兄弟は…なんというか。」
会えばすべてが解るのだが。
「次に。秋典さんの前では、絶対大声を上げないでくれ。怒鳴ったり、ヒスを起こしたり。特に荒っぽい言葉遣いは絶対にダメだ。」
「…。」
極道相手に無茶な事を…。思わず天を仰いだ海斗だったが、考えてみれば海斗自身は極道ではない。気性もおおらかで、その穏やかな言動は子供には好かれ易いだろう。だから遠野は海斗を選んだのだ。
遠野の言葉の端々に、秋典という子供に対する繊細な心遣いが見て取れる。
「秋典さんは幼い頃、暴力事件に巻き込まれていて…まぁ、すぐに解る事だが…精神状態が少し未発達なんだ。」
「え…。」
「保育園児のまま、精神の成長が止まっている。だから言動が見た目の容姿より遥かに幼い。」
「つまり…14歳でありながら見た目は6、7歳で。その上、精神状態が3、4歳という事ですか?」
「そうだ。」
「それは…。」
何が食事の世話だ。これでは保父の真似事をさせられるようなものである。普通に世話をするにもかなりの覚悟がいりそうだ。
隣に座った遠野の横顔を見詰めたまま、海斗は溜息を噛み殺す。しかし、遠野の話はそれだけではなかった。
「実は、それだけじゃない。」
遠野の言葉に、海斗はガックリと項垂れる。これ以上何があるというのか。
「まだ、何かあるんですか?」
もう、矢でも鉄砲でも持って来い、だ。海斗の心境を知ってか知らずか、遠野は正面を見つめたまま苦笑する。
すでに二人が乗った車が駐車されて随分と経っていた。
「ああ。最後の注意に関連しているんだが…。」
「何です?」
「この三兄弟は…揃いも揃って天才児なんだ…。」
「はぁ?」
海斗の素っ頓狂な声に、遠野は苦く苦く笑った。
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