2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
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運命の女神が織り上げる、壮大なる運命のタペストリー。
その綾なす糸に人間の存在を加える事が出来るのはただひとり。
裁きの女神。
千年に一度、人間界に舞い降りる美しき少女神。
世界を裁く。
その意味において、彼の女神の存在は他神を圧倒するほどに絶大であった。
それ故に。
運命の女神は待ち続けている。
裁きの女神が、その白き指先で新たなる糸を紡ぎ上げるその刻を。
「おいでおいでっていうよ。」
「それは、声だけか?」
「うん。」
「何も見えない?」
「うん。でもかたいの。」
「硬い?」
「そお。かたいよ。おっきくてかたいの。」
「大きくて硬い? 触れられるのか?」
「ううん。でもかたくておっきくて。おいでおいでっていうの。」
「・・・触れられないのに、硬いと解るのか?」
「うーん?? よくわかんない。」
幼子の言葉には脈絡がない。
追い打ちをかける舌っ足らずの声。
「とーちゃ。も、いーい?」
「あ・・・。」
とうとう飽きてしまったのか、父であるダグの膝上からスルリと滑り降り、さっさと掘立小屋を駈け出してゆく後姿。尋問拷問は得意技のドールも齢三つの子供相手では勝手が違う。子と、子の父であるダグと三人で時間を掛けて話してみたが、やはり子を呼ぶ声の謎は謎のままだ。
「キュアには、まるで聞き覚えがない声なのだな?」
「ああ、そう言っていた。閣下の声でもないと。だが、空耳ではないとも言っている。」
「男の声が『見つけた』といったのだな?」
「ああ。だから心配している。ヒイに何か起こるのではないかと。」
「硬くて大きな何かがヒイラギを呼んでいる・・・。」
「閣下が、ヒイの名には意味がある、そんな事を言っていた。それに、多分、本当の名付け親は姫様だろう。だとしたら、何が起こっても不思議じゃない。」
何しろ、もしかするとヒイラギの本当の名付け親は神かもしれないのだ。
しかも、その溜息ひとつで世界の息の根を容易く止めてしまうほどの力を持つという絶対神だ。
「・・・。」
「なあ、ドール。」
「うん?」
「本当に閣下は死んだのか? あの時、姫様は何処にいたんだ?」
「・・・。」
「お前は、炎の中に消えてゆく閣下を見たと言ったな?」
「ああ。」
「閣下は姫様を助けに行ったんだろう?」
「そうだ。」
王都に降り注ぐ光の雨。
その雨は、物質に触れた途端赤黒い炎に姿を変え、あっという間に王都は火の海となった。
「姫様は王妃の間におられたはずだ。俺は、血相を変えて現れた閣下と中庭で偶然会い、すぐに皆とその家族を纏めて国境を超えるように命じられた。」
その最中にも、城を包む炎は生き物のように壁を這い、草木を焼き払っていた。
瞬く間に窓の其処ここから火柱が噴き上がり、逃げ惑う人々の悲鳴と叫びに耳を貫かれ、ドールは眼前の光景に一瞬、身が竦んだ。
地獄だった。
「ガローン邸に使いを出す事もその時言われ、俺はリーゲ(ドールの愛馬)のいる厩舎に走った。」
「そして、厩舎でオレと会った。」
「ああ。お前に閣下の命令だけを伝え、俺は再び閣下の許へ・・・だが・・・。」
中庭でリーゲから飛び降りた時、ドールの頭上から火の玉が幾つも降って来た。
それが、炎に巻かれた人間だと知った時の衝撃。
無我夢中で中に飛び込んだ。
「王妃の間は、真黒な炎に包まれていた。扉の前には、閣下が立ち尽くしていて・・・。」
あの時・・・。
「ドール。何としても生き延びてくれ。そう言って、閣下は黒い炎の中に飛び込んで行った。」
その直後、一緒に飛び込もうとしたドールの前で。
「王妃の間は崩れ落ちた・・・。一瞬だ・・・。」
「ドール・・・。」
「あの時。初めて、絶望という言葉の意味を知った。」
後は、何も覚えていない。
崩れた足元から階下に落ちて、そこから這いだしたらリーゲがいた。
それだけだ。
⑦につづく。
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