2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
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たった一人の男の為に、人生のすべてを捧げてきた。
たった一人の存在の為に、この命のすべてを。
出会った時は、美しいだけの少年。
けれど、その内に秘めていた激しさと潔さに、惚れた。
すべては、たった一人の男の為。
その存在の為だけに、己は生きてきた。
生き続けてきたのだ。
その存在を、目前で喪う絶望。
魂が絶叫する。
『閣下
すべては、一瞬の事。
「そうか・・・あの馬鹿者は、死んだか。」
「申し訳ありません・・・。しかし、まだ死んだとは・・・。」
「おぬし。あの城を、あの城下を見て、それでも、そんな事が言えるのか・・・。」
「トレイアス殿・・・。」
「仕方あるまいよ・・・あの馬鹿息子が選んだのだろう。あの小さな姫と共にある事を。」
「神族は、下界で死ぬ事などないと聞いております。」
「あの姫が死なぬ事と、あの馬鹿が生きておる事とは同義にならん。神の聖剣とて、ホンモノの前では意味を成すまい。」
「・・・。」
「それで、これからぬしはどうするのだ。」
「・・・仲間と共に、南を目指します。」
「そうか。」
「はい。」
「南の地で、あの馬鹿を待つのか?」
「はい。」
「ぬしも物好きだな。」
「惚れた・・・弱みでしょう。」
「ははは。あの馬鹿は、人を魅了する事だけには長けておる。」
「お父上の血筋でしょうか。」
「ならば、命を粗末になどすまいよ。妻も子も持たず。ぬしのような男に惚れられても、その力を生かしきってやる事もできず。宝の、持ち腐れのまま・・・。」
「閣下と出会わなければ、私の人生などクズのようなものでした。」
「ドゥオル。」
「閣下と出会えた事が、私にとっては最高の幸運だったのです。」
「ならば、アレの存在も無駄ではなかったという事か・・・。」
「だから、待ちます。待たせていただきます。ずっと。」
「そうか。」
あれから四年・・・。
息子の許に集っていた剣闘士達はどうなったのか。
世界最強の軍団と謳われ、戦う事でしか生きられぬ男達であったのに。
女子供を連れ、この荒野を今もなお彷徨っているのだろうか。
「お父さま。」
「アイラか。」
「はい。」
「どうした?」
「ライラお姉さまが、また夢にうなされて・・・。」
「ライラが?」
「はい。日に日に悪夢が酷くなっているような。一体、どうしてしまったのでしょう。まさか、アミューン兄さまのように・・・。」
「バカを申すな・・・。」
「でも、お父さま。」
一体、何が起こっているというのか。
ライラの不可思議な夢が悪夢に取って代って数日が過ぎていた。
『何かが来ます・・・黒く、悪しきものが・・・。』
悪夢から目覚める度、ライラは怯えたような眼でテントの裂け目から空を見上げる。
過酷な生活が祟ったのか、最近は寝たきりだ。言葉にはしないものの、もう、椅子にすら座っているのが辛いらしい。
『神よ。どうかその怒りを収め、罪なき子らだけはお護りください。これ以上、幼き命を苦しめないでくださいませ。』
その祈りの声が、夜明けのテントの中に悲しく響く。
随分と多くの命が失われた。
彼らの村だけでなく、この人間世界から。
「ライラ。」
「お父様。」
「泣くな。そなたが泣けば、妹たちも泣く。」
「・・・すみません。」
「最近の夢は、以前のものとは違うようだの。」
「はい・・・酷く、危険を感じるのです。」
「危険?」
「以前の夢に、こんな危機感はなかった。何かが迫ってくる圧迫感・・・酷く息苦しいのです。そして、邪悪な感じが日に日に強くなるのです。」
何かが、確実にやって来る。
その予感が、日に日に強くなる。
「ディオネイル兄様・・・。兄様は、わたくしに何かを伝えたくて夢を見せているのでしょうか。」
「馬鹿な。あの愚か者は死んだのだ。」
「お父様。」
「さあ、まだ早い。もう少し眠るのだ。」
ライラには解っている。
この父が、一番兄の生存を願っているのだ。
最愛の妻が残した唯一の子。
諦められるはずがない。
「ライラ。お前が眠るまで、わしが傍についていてやろう。」
「はい。」
「手を握っていてやろうか。」
「まぁ、わたくしは幼子ではありませんわ。」
「はは。そうであったな。」
夜明け前の静寂。
陽が昇れば、また空を見上げるだけの時間が始まるのだろう。
数年前、贅沢の極みに暮らしていた日々を夢見る余裕もなく、飢えと、渇きに耐えるだけの長い時間が。
ライラは、ゆっくりと目を閉じる。
父の視線に護られている時だけは安心して眠れるのだ。
その時。
「・・・っ?!」
「お父様?」
「蹄の音・・・まさか・・・っ。」
『人間狩りだ
すべての運命が、今、この瞬間。
轟音と共に一気に動き出す。
⑧に続く。
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