2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
なお、ブログ中の掲載物につきましては「無断転載・無断使用を禁止」させていただきます。
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椿邸には、大きく分けて三つのフロアがある。
ひとつが、身辺護衛の交代要員などの為に用意された警護班専用事務所兼仮眠室だ。中は想像以上に広く、ファミリー向けマンションとしても十分に機能するだけの物が揃っている。
そしてもうひとつが邸内に用意されたセキュリティ・ルームを含む管理室である。この二つのフロアはセキュリティ・ルームの中ドアで繋がっており、常時人が出入りを繰り返している。
戸崎家の三兄弟が日常の半分を過ごしているのはこの管理室のリビングであり、未だ登場してはいないが、トレーニング・ルームや小さいながらも室内プールなどがある。
因みに、警護班が使用しているバス・ルームとは別に広いジャグジー・ルームがあって、二男と三男はそこで入浴を済ませる事が多い。ただし、長男はプライベート・ルーム以外での入浴を禁止されているので、弟たちの世話をする以外でこのジャグジー・ルームを訪れる事はない。
そして、三兄弟の為のプライベート・ルーム。正確に言えば、椿邸とはこのプライベート・ルームを指し、広さもかなりのものだ。
勿論、管理室とは別にキッチンやリビングダイニングを持ち、ウォーク・イン・クローゼットが二か所、椿の書斎と寝室、三兄弟それぞれの個室、未使用の二部屋、個室はすべてシャワー・ルーム付き。それ以外にバス・ルームが二か所、トイレが三か所、シアター・ルーム、カウンター・バー付き娯楽室。サン・ルーム。資料室。
そして武器庫。因みにこの武器庫はきちんと国の許可を得たものである。中に置かれているモノは別にして…の話だが。
とにかく、椿匡雅の財力を見せつけるかのようなこの邸の造りは、絢爛豪華…華美ではないものの、やはりそんな言葉がしっくり来る。と、思う…。
「はぁ…どうしよう…。」
十畳ほどあるウォーク・イン・クローゼットの床に座り込み、この邸に尤も相応しく、けれどそれを自覚出来ない麗しの長兄こと戸崎鷹久は、人さまには見せられないほど情けない貌(かお)で盛大な溜息を吐いた。
壁一面の鏡に視線を向ければ、長い睫毛の影が目の下にクマを作っている。こんな顔、弟たちには見せられないと思うのだが、今の憂鬱はどうする事も出来ない。
空っぽのウォーク・イン・クローゼット。
いや、正確に言えば三個の段ボール箱がある。ここへ越して来て一週間が過ぎたが、未だ手付かずの着替え。と、言うより、手を付けるだけの物がないのだ。実際の話。
その日暮らし。貧乏のどん底からここへ来た三兄弟に、このだだっ広いクローゼットを埋めるだけの物があるはずもない。
「どうしよう…。」
『必要な物は何でも遠野に言え。』
椿にはそう言われたが、その『必要な物』に自分たちの着替えなんて入れていいのか?
鷹久が抱き締めている真新しいパジャマは、ここへ来る前にいた病院で手に入れた物だ。三兄弟は椿に拾われた後、一カ月近く入院していたのだ。大病院の特別室に。その時、必要だろうとパジャマを買ってくれたのが野田あづみ。鷹久と椿を出逢わせた張本人だ。
元々椿はあづみのパトロンだった、らしい。詳しい事は鷹久もよく知らない。ただ、このあづみのお陰で三兄弟は生き延びる事が出来たと言っても過言ではない。あづみは今も一週間に一度は連絡をくれる。姐御肌で気は強いが、とても優しい面倒見の良い女性だ。パジャマの事にしても『病院のでいい』と言ったにも関わらず態々三兄弟分を揃えてくれたのだ。しかも、これからも必要でしょう?、と着替え用に三着ずつ。それ以外でも随分とよくしてもらっている。
電話で相談してみようか。
そうは思うが、たかが着替えをどうしたらいいか、なんて相談をされても、あづみは迷惑だろうし、携帯代がもったいない気がする。勿論、携帯代も椿の支払いだが。だからこそ躊躇いがある。
しかし…しかし、だ。
「今の洗濯機って、こんなに凄いんだ…。」
確かに着古しばかりだったが…。
「まさか、大半が着られなくなるなんて…。うそだろ。」
この日の夕方。初めて使ったドラム式とやらの乾燥機付き洗濯機。弟たちの風呂の世話をする前に片付けようと思い立ったのが悪かったのか。なんと、中に入れた洗濯物がボロボロになっていたのだ。
暫く放心状態のままだったが、なんとかクローゼットまで持って来た。が、これは…もう…縫って誤魔化せる状態ではない。
しかも、恐る恐る段ボール箱の中を見れば案の定、数枚の着替えしか残ってない。
正直言って、服の事にまで気が回る生活状態ではなかったのだ。今まで。
「どうしよう…。」
考えてみれば、自由になるお金なんてある筈もない。
突然、食と住が満たされたものだから、そんな金銭の必要性まで考えてなかった。
『困った事があったら遠慮なく電話しろ。』
誰もがヨダレを垂らして欲しがる椿の携帯のプライベート・ナンバー。
短縮03で繋がる事は解ってる。
でも。
「遠野さんとか…おさがりくれないかな…。」
相談してみようかな…。
実はこの時。
鷹久は自分が椿の愛人になった事などまるで知らなかった。
いや、気付いていなかった、と言った方が正しい。
何しろ、キスひとつした事がない。あれよあれよという間に、今に至ってしまった。
勿論、鷹久は椿の事が好きだったのだが。それは一目惚れで、未だ言葉にした事はない。ある意味、身分違いも甚だしいだろう。その上、自分は男だし。そんな事が頭を過る度、諦めるのが当たり前だと思ってしまったのだ。
大体にして、鷹久は大きな勘違いをしていた。
あづみが椿にすべて頼んでくれたのだと思い込んでいた。
だから思っていたのだ。
つまらない事でお金を使わせるなんてとんでもない。
自分たち兄弟は居候なんだから、と。
ひとつが、身辺護衛の交代要員などの為に用意された警護班専用事務所兼仮眠室だ。中は想像以上に広く、ファミリー向けマンションとしても十分に機能するだけの物が揃っている。
そしてもうひとつが邸内に用意されたセキュリティ・ルームを含む管理室である。この二つのフロアはセキュリティ・ルームの中ドアで繋がっており、常時人が出入りを繰り返している。
戸崎家の三兄弟が日常の半分を過ごしているのはこの管理室のリビングであり、未だ登場してはいないが、トレーニング・ルームや小さいながらも室内プールなどがある。
因みに、警護班が使用しているバス・ルームとは別に広いジャグジー・ルームがあって、二男と三男はそこで入浴を済ませる事が多い。ただし、長男はプライベート・ルーム以外での入浴を禁止されているので、弟たちの世話をする以外でこのジャグジー・ルームを訪れる事はない。
そして、三兄弟の為のプライベート・ルーム。正確に言えば、椿邸とはこのプライベート・ルームを指し、広さもかなりのものだ。
勿論、管理室とは別にキッチンやリビングダイニングを持ち、ウォーク・イン・クローゼットが二か所、椿の書斎と寝室、三兄弟それぞれの個室、未使用の二部屋、個室はすべてシャワー・ルーム付き。それ以外にバス・ルームが二か所、トイレが三か所、シアター・ルーム、カウンター・バー付き娯楽室。サン・ルーム。資料室。
そして武器庫。因みにこの武器庫はきちんと国の許可を得たものである。中に置かれているモノは別にして…の話だが。
とにかく、椿匡雅の財力を見せつけるかのようなこの邸の造りは、絢爛豪華…華美ではないものの、やはりそんな言葉がしっくり来る。と、思う…。
「はぁ…どうしよう…。」
十畳ほどあるウォーク・イン・クローゼットの床に座り込み、この邸に尤も相応しく、けれどそれを自覚出来ない麗しの長兄こと戸崎鷹久は、人さまには見せられないほど情けない貌(かお)で盛大な溜息を吐いた。
壁一面の鏡に視線を向ければ、長い睫毛の影が目の下にクマを作っている。こんな顔、弟たちには見せられないと思うのだが、今の憂鬱はどうする事も出来ない。
空っぽのウォーク・イン・クローゼット。
いや、正確に言えば三個の段ボール箱がある。ここへ越して来て一週間が過ぎたが、未だ手付かずの着替え。と、言うより、手を付けるだけの物がないのだ。実際の話。
その日暮らし。貧乏のどん底からここへ来た三兄弟に、このだだっ広いクローゼットを埋めるだけの物があるはずもない。
「どうしよう…。」
『必要な物は何でも遠野に言え。』
椿にはそう言われたが、その『必要な物』に自分たちの着替えなんて入れていいのか?
鷹久が抱き締めている真新しいパジャマは、ここへ来る前にいた病院で手に入れた物だ。三兄弟は椿に拾われた後、一カ月近く入院していたのだ。大病院の特別室に。その時、必要だろうとパジャマを買ってくれたのが野田あづみ。鷹久と椿を出逢わせた張本人だ。
元々椿はあづみのパトロンだった、らしい。詳しい事は鷹久もよく知らない。ただ、このあづみのお陰で三兄弟は生き延びる事が出来たと言っても過言ではない。あづみは今も一週間に一度は連絡をくれる。姐御肌で気は強いが、とても優しい面倒見の良い女性だ。パジャマの事にしても『病院のでいい』と言ったにも関わらず態々三兄弟分を揃えてくれたのだ。しかも、これからも必要でしょう?、と着替え用に三着ずつ。それ以外でも随分とよくしてもらっている。
電話で相談してみようか。
そうは思うが、たかが着替えをどうしたらいいか、なんて相談をされても、あづみは迷惑だろうし、携帯代がもったいない気がする。勿論、携帯代も椿の支払いだが。だからこそ躊躇いがある。
しかし…しかし、だ。
「今の洗濯機って、こんなに凄いんだ…。」
確かに着古しばかりだったが…。
「まさか、大半が着られなくなるなんて…。うそだろ。」
この日の夕方。初めて使ったドラム式とやらの乾燥機付き洗濯機。弟たちの風呂の世話をする前に片付けようと思い立ったのが悪かったのか。なんと、中に入れた洗濯物がボロボロになっていたのだ。
暫く放心状態のままだったが、なんとかクローゼットまで持って来た。が、これは…もう…縫って誤魔化せる状態ではない。
しかも、恐る恐る段ボール箱の中を見れば案の定、数枚の着替えしか残ってない。
正直言って、服の事にまで気が回る生活状態ではなかったのだ。今まで。
「どうしよう…。」
考えてみれば、自由になるお金なんてある筈もない。
突然、食と住が満たされたものだから、そんな金銭の必要性まで考えてなかった。
『困った事があったら遠慮なく電話しろ。』
誰もがヨダレを垂らして欲しがる椿の携帯のプライベート・ナンバー。
短縮03で繋がる事は解ってる。
でも。
「遠野さんとか…おさがりくれないかな…。」
相談してみようかな…。
実はこの時。
鷹久は自分が椿の愛人になった事などまるで知らなかった。
いや、気付いていなかった、と言った方が正しい。
何しろ、キスひとつした事がない。あれよあれよという間に、今に至ってしまった。
勿論、鷹久は椿の事が好きだったのだが。それは一目惚れで、未だ言葉にした事はない。ある意味、身分違いも甚だしいだろう。その上、自分は男だし。そんな事が頭を過る度、諦めるのが当たり前だと思ってしまったのだ。
大体にして、鷹久は大きな勘違いをしていた。
あづみが椿にすべて頼んでくれたのだと思い込んでいた。
だから思っていたのだ。
つまらない事でお金を使わせるなんてとんでもない。
自分たち兄弟は居候なんだから、と。
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