2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
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幽かな振動もなく最上階に着いたエレベーターは、クンッ、と乾いた音を立てて止まり、そのドアは何事も起こらないような顔で左右に開いた。が、そこにもまたドアがある。警備上の問題なのだとは思うが、あまりにも神経質過ぎると海斗は思う。
しかし。中ドアがやはり何事もなく左右に開くと、海斗はあんぐりと口を開け、どっと疲れたように遠野の背に手の平を押しあて寄り掛かった。
門…だ。
しかも、高い天井に限りなく近い、聳え立つ門。
その上。
「に…庭…。」
確かに庭だ。
門の内側。決して華美ではないが可愛らしい庭が存在している。
咲いているのは白いバラ。蒼いバラ。
天井から優しく降り注ぐ光は、今流行りの青色発光ダイオード…。
いや。そんな事はどうでもいい。
さっきから海斗が気になるのはそんなものではない。
この空間の、意外な黒さ、だ。
名義は椿らしいが、ここに暮らしているのは18歳を長男とする16歳と14歳の子供たちだ。しかも、その内の一人は保育園児と言ってもいい。
なのに…。
庭の色を除けば、全てが黒い。
暗いのではなく、黒い、のだ。
「お疲れ様です。」
門の内側にいた直立不動の男・伊達が遠野と海斗に深く頭を下げた。
と、同時に門が開く。コンピュータ制御のこの門は、邸内からしか開けられないのだ。
遠野と海斗が二人の護衛と共に中に入ると、背後で音もなく門が閉まる。これだけ大きな門が無音で動くと、少し不気味だ。
そのまま遠野の一歩後ろを歩きながら海斗が奥に視線を向けると、黒い壁に黒い重厚な扉があった。そこから少し離れた場所に、やはり黒くて重々しいドアがある。このドアの奥は事務所になっており、常時4、5人が詰めている。更に三兄弟の居住空間に4人。少数精鋭で纏められた警護は厳重だ。人数ではない。超高層ビルの最上階とも言えるこの場所に、本来ならばこれだけの警備は必要ないのだ。
だが、椿は三兄弟の為に、否、彼の愛人の為にこれだけの警備態勢をとっている。
それだけの価値がある、という事だろう。
「皆さんは?」
「つつがなく過ごしておられました。」
「秋典さんは?」
「今日はたっぷりとお昼寝されたので、ご機嫌はよろしいようで。」
「そうか。」
「待っておられましたよ。」
「ん?」
「今日はお客様が来ると鷹久さんが仰ったものだから、秋典さん、首を長くしてお待ちでした。」
「そうか。遅くなって悪い事をしたな。ああ、伊達。海斗だ。」
すべての生活が、秋典という少年を中心に動いている。
遠野と伊達の会話からもそれが感じ取れる。
遠野に名を呼ばれて海斗がペコリと頭を下げると、伊達は穏やかに笑った。とても極道とは思えない。ごく普通のサラリーマンのようだ。身長は海斗より少し高いくらいだから、多分180センチ前後だろう。190センチある遠野と比べると小柄に見えるが、上質なスーツの上からでも鍛えられているのがよく解る。
「伊達悠輔です。」
「東城海斗です。」
「後ほどキーを作る為の指紋をとらせて頂きますので。それと暗証番号を考えておいてください。」
「え…?」
「海斗さんは鷹久さんたちと同居されると聞いています。鍵がないと不便でしょうから。ここはセキュリティの関係でダブルロックシステムを採用しています。その為に指紋が必要なんです。後でゆっくり説明しますね。」
「あ、ありがとうございます。」
低くよく通る伊達の声を聞きながら、海斗はもう逃げられないのだと腹を括る。
尤も、遠野に呼ばれた時点で海斗には逃げ道などなかったのだが。
「では、どうぞ。」
伊達の声と共に重厚な扉がゆっくり開く。
「え…。」
海斗の視線の先に広がった扉の向こう側もまた、真っ黒い空間だった。
しかし。中ドアがやはり何事もなく左右に開くと、海斗はあんぐりと口を開け、どっと疲れたように遠野の背に手の平を押しあて寄り掛かった。
門…だ。
しかも、高い天井に限りなく近い、聳え立つ門。
その上。
「に…庭…。」
確かに庭だ。
門の内側。決して華美ではないが可愛らしい庭が存在している。
咲いているのは白いバラ。蒼いバラ。
天井から優しく降り注ぐ光は、今流行りの青色発光ダイオード…。
いや。そんな事はどうでもいい。
さっきから海斗が気になるのはそんなものではない。
この空間の、意外な黒さ、だ。
名義は椿らしいが、ここに暮らしているのは18歳を長男とする16歳と14歳の子供たちだ。しかも、その内の一人は保育園児と言ってもいい。
なのに…。
庭の色を除けば、全てが黒い。
暗いのではなく、黒い、のだ。
「お疲れ様です。」
門の内側にいた直立不動の男・伊達が遠野と海斗に深く頭を下げた。
と、同時に門が開く。コンピュータ制御のこの門は、邸内からしか開けられないのだ。
遠野と海斗が二人の護衛と共に中に入ると、背後で音もなく門が閉まる。これだけ大きな門が無音で動くと、少し不気味だ。
そのまま遠野の一歩後ろを歩きながら海斗が奥に視線を向けると、黒い壁に黒い重厚な扉があった。そこから少し離れた場所に、やはり黒くて重々しいドアがある。このドアの奥は事務所になっており、常時4、5人が詰めている。更に三兄弟の居住空間に4人。少数精鋭で纏められた警護は厳重だ。人数ではない。超高層ビルの最上階とも言えるこの場所に、本来ならばこれだけの警備は必要ないのだ。
だが、椿は三兄弟の為に、否、彼の愛人の為にこれだけの警備態勢をとっている。
それだけの価値がある、という事だろう。
「皆さんは?」
「つつがなく過ごしておられました。」
「秋典さんは?」
「今日はたっぷりとお昼寝されたので、ご機嫌はよろしいようで。」
「そうか。」
「待っておられましたよ。」
「ん?」
「今日はお客様が来ると鷹久さんが仰ったものだから、秋典さん、首を長くしてお待ちでした。」
「そうか。遅くなって悪い事をしたな。ああ、伊達。海斗だ。」
すべての生活が、秋典という少年を中心に動いている。
遠野と伊達の会話からもそれが感じ取れる。
遠野に名を呼ばれて海斗がペコリと頭を下げると、伊達は穏やかに笑った。とても極道とは思えない。ごく普通のサラリーマンのようだ。身長は海斗より少し高いくらいだから、多分180センチ前後だろう。190センチある遠野と比べると小柄に見えるが、上質なスーツの上からでも鍛えられているのがよく解る。
「伊達悠輔です。」
「東城海斗です。」
「後ほどキーを作る為の指紋をとらせて頂きますので。それと暗証番号を考えておいてください。」
「え…?」
「海斗さんは鷹久さんたちと同居されると聞いています。鍵がないと不便でしょうから。ここはセキュリティの関係でダブルロックシステムを採用しています。その為に指紋が必要なんです。後でゆっくり説明しますね。」
「あ、ありがとうございます。」
低くよく通る伊達の声を聞きながら、海斗はもう逃げられないのだと腹を括る。
尤も、遠野に呼ばれた時点で海斗には逃げ道などなかったのだが。
「では、どうぞ。」
伊達の声と共に重厚な扉がゆっくり開く。
「え…。」
海斗の視線の先に広がった扉の向こう側もまた、真っ黒い空間だった。
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