2007.12。公開開始。
このブログは み羽き しろ の執筆活動の場となっております。
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たった一人の男の、愛ゆえの愚かさが世界を崩壊させてゆく。
『女神の降臨に於ける盟約十カ条』
それは、たった一枚の紙切れ。
けれど、その紙切れの持つ意味を、力を、下界の人間たちは誰もが理解していなかった。
天上界。
神国リシュリアン・リーム。
世界を創造せしマントル八神に守護されし『監視国』。
その皇族は、千年に一度下界を裁く為、ひとりの皇女を降臨させる。
「どうした・・・?」
「お父様・・・。」
「酷くうなされておった。」
「夢を・・・夢を見ました・・・。」
「夢?」
「黒い大地に・・・赤い川・・・ひとが・・・誰かが立っていて、何かを指さして・・・でも。」
「ライラ。何を泣いておる?」
「・・・え?」
「涙ぞ・・・頬に跡が。」
「気づきませんでした・・・。」
黒い月が、紫紺の空を音もなく焼いている。
世界の空が、かつては無数に輝いていた星々の光を失って一年。
月の神と太陽の女神に見捨てられた下界の時間は、流れはそのままに昼夜のバランスだけを失いつつあった。
毎日、昼と夜の長さが違う。
光と闇の区別がなくなる。
一日の概念が壊れる。
この現象に、多くの人間たちが精神を病み、命を断つ者が後を絶たないという。
「内陸も、もうダメかのぅ・・・。」
「お父様。」
ボロボロのテントの中、暖をとる為の僅かな煙が虚空を漂う。
ここは世界の中心に当たる内陸部キルムにある、かつてキャラバンと呼ばれた商隊の小さな集落内の長のテントだ。
彼らは三年前、北の国より大陸を巡りこの地へ辿り着き、テント村を築いて今に至っている。
「信じられるか、ライラ。この荒野が、数年前までは樹海であったなどと。」
「・・・。」
「この世界から、水がなくなるなどと・・・。」
「お父様・・・お疲れです。もう、おやすみくださいませ。」
「構わぬ。どうせ眠れぬのだ。」
「でも、もう何日も眠られておられません。お身体が。」
「構わぬ。こうしてお前と語らっていられるのも、あと僅かであろう。」
「何という事を申されます。」
「わしは、充分に生きた。もう、充分なのだ。ライラ。」
「お父様・・・。」
「ただ、お前たちの事だけが気がかりで仕方ない。これ以上、誰も喪いたくないと思うのに・・・。また・・・息子が死んでしまった。」
「アミューン兄さま・・・。」
「無理をしおって・・・父より先に逝くなどと・・・。親不孝な。」
三年前、ここに村を築いた時には千人近くの人間が暮らしていた。
今は、もう・・・その半分にも満たない。
多くは病と栄養失調で命を落とし。
更には不慮の事故で帰らぬ人となり。
そして最近、自ら命を絶つ者が増え始めた。
誰にも、どうする事も出来ない現実に絶望したのだろう。
アミューンもその中の一人だった。
前日までは懸命に生きる道を模索していたのに・・・。
ライラは、その事実だけを知らされている。
彼女は、このテントを出る事は滅多にない。
足が不自由なのだ。
「お父様・・・。」
「ん?」
「今、思い出したのですけれど・・・あの人影。」
「人影?」
「夢の。」
「うむ。」
「あれは・・・ディオネイル兄さまでは・・・。」
「なに?」
「暗くて顔は解らないのですけれど・・・あの横顔・・・。」
「ばかを言うな、ライラ。あやつは・・・あの愚か者は、王城で死んだと聞くぞ。」
「お父様。」
「第一、今さら、ただの夢ではないか。最後までわしを怒らせたまま・・・あのバカは・・・。」
「お父様。でも、わたくし達が無事に国を脱出できたのは兄さまのお陰ですわ。兄さまの使いが来なければ、わたくし達は神の報復に巻き込まれて、今頃どうなっていた事か。」
「ライラ・・・。」
「それに・・・。」
「それに?」
「今まで黙っておりましたが、わたくし、同じ夢を何度も見ているのです。」
黒い大地。
赤い川。
「デイノス(死の荒野)によく似た・・・あの岩場。」
指をさす人影。
暗いはずなのに、なぜかそのシルエットだけがはっきりと見えて。
「もしや・・・兄さまが呼んでいるのでは・・・。」
「あのバカが? 今さら、何の為に。」
「お父様・・・。」
「あり得ぬ・・・。」
「でも。もしも・・・もしも兄さまが生きておられるのならば・・・。」
「そこには、必ず神の姫がおられるのではありませんか?」
④に続く。
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